最終章

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 俺たち子供は、自由に飛んでいるつもりでも、結局は大人たちの手の上でしか羽ばたけていないのだ。  見上げる病室の四角い天井。俺はこんなものを空だと思っていた。 「サオリ。もうさ、会うこともないな」  俺の言葉にサオリはため息をひとつ、ベッドに寝たきりの俺に、そっと顔を寄せ口づけた。 ぴんぽーん。 ぴんぽーん。  サオリはいつもそうだ。アポなしで俺の心に入り込んでくる。土足で踏み込んでくる。  痺れた口に熱いキス。時が止まる。息ができない。やがてキスは止み、うっとりした顔のサオリはこう続けた。 「あれー? サオリ、あの時プロポーズしたつもりなんだけど、もう忘れちゃった? 返事はさ、次に会った時でいいよ」  彼女はくるっとスカートを翻し、病室を後にする。俺は手を伸ばし、何かを言いかけて、我に返りそれを止めた。
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