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【エピローグ キク二十四歳】
週末、一人暮らしを始めた俺は、仕事終わり、一人自室でテレビを観る。
白熱する九回裏、ランナーは一、二塁、一打逆転のチャンス。
いつしか空は、遥か遠くになった。ナイター中継をツマミにビールを呷る俺は、自由なのであろうか? 上手く飛べているであろうか?
ピッチャーが大きく振りかぶったところで、俺の携帯電話はショートメールを受信する。母親からである。機械音痴故、苦労して教え、最近になってやっとメールの使い方を覚えたばかりだ。
『キク。元気にしてるかい? たまには帰ってきなよ。ああそうだ、品川さんちのサオリちゃん覚えているかい? 先週、訪ねてきてね、あんたの住所教えておいたよ』
息子の個人情報をあっさり教えてしまう両親が、いつか振り込め詐欺とかに、引っかかってしまうのではないかと、一抹の不安を覚えると、共にサオリに無性に会いたくなった。
テレビの中、中日の四番が外角高めのストレートを打ち上げ、平凡なフライに見えたそれは、伸びに伸び逆転のスリーランとなった
ところで、俺んちのインターホンは二度ベルを鳴らした。
ぴんぽーん。
ぴんぽーん。
あいつはいつもそうだ。
アポなしでやってくる。
fin
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