地下牢にて

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{情けをかけてやるぞ。仲間の最後を見せてやる! }  内蔵から揺さぶられるような、重低音の声。  雷や火山の音は、人間の恐怖を本能的に引き起こすというのは本当なんだ。  落ち着け。  捕虜になった時、言ってやるのは名前と管制番号だけで十分なんだ。 「高橋(たかはし) 清治(せいじ)。5年2組。出席番号8番」  どこかの戦争映画で見た記憶。  そのご利益もそこまでだった。  あたりは真っ暗闇。  しかも手足を動かす感覚さえない。  どうなってるんだ? これ?  椅子に縛り付けられているとか、そういう感覚さえない。    そう思ったら、目の前に光が現れた。  ほの暗いダンジョン。  そうとしか言いようのない土と石で覆われた空間がそこにあった。  円形の壁と平らな床、真っ直ぐ伸びた形。   幅も高さも、3メートルと言ったところだろうか。  銀色の金属板が、背骨と肋骨のような支柱に乗っている。  ダンジョンの縁には水路が掘られ、地下水による水たまりとは無縁だった。  これまで一度も日に当たったことのないひんやりとした空気がありそうだ。  なのに、感触はない。  かざしたはずの自分の手さえ見えない。    そんなダンジョンの空気を一気に熱くさせるように、無数の銃火が轟音とともにきらめいた。 『グレネード! 』  鋭い女の声が響いて一瞬。  空間全体が白一色に染まった。  轟音は人間の耳の性能を超える。  グレネード。  爆発によって、鉄などの破片をまき散らす武器。  またの名を手榴弾。  その輝きに照らされたのは、映画で見たような戦場だった。  銃火を司るのは、艶のない黒一色の服を来た男女、ライフルマン達。  全身にアーマーを着込み、手足をフレームで支え、関節をモーターで助けるパワードスーツを着ている。  先頭に立つ防弾盾を持つ男が、スタングレネードがきらめく間に前進した。  同時に、盾の後ろにいたライフルマンが、壁に向かって広がった。  さらに多くの銃が敵にむけられる。  前にもまして激しい銃火を放つ。  だが、それでも敵には効果がなかったようだ。  スタングレネードの効果が消えていく。  金属同士の激しい衝突音が続き、まっすぐな軌道はねじ曲がり、床や天井に突き刺さった。
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