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目と目が合う。ぱっちりとした黒目、整った顔立ち。綺麗なひとだ、そんな率直な感想を抱いた頃には、彼女はもう目を伏せてしまっていた。それとほぼ同時に、気付けば俺も開きかけていた本に目を落としていた。彼女は再び、背景に溶けた。
ところが、俺が最初の一ページを読み終える頃、ふと視線を感じた。それはどうやら、向かいの席から送られてくるようだった。目を合わせれば慌ててそらす。生憎こちらは人見知りなどはしない質だ。さすがに集中できなくなくなった俺は、ついに声をかけることにした。
──あの、どうかしましたか?
──えっ。
少し焦げ茶のかかった、セミロングのストレートが揺れた。
──いえ、すみません、つい目に留まってしまったもので。
ひょっとして酷い寝癖でもついているのだろうか。だとしたら俺は今日、学校で笑いものにされていたに違いない。そんなくだらないことを考えていると、彼女はおもむろに、今まで読んでいた本のブックカバーを外してみせる。
──ああ、なるほど。同じ本ですね。
──ええ、それも三冊全部同じ。
──三冊?
彼女はくすりと微笑むと、鞄からさらに二冊の文庫本を取り出し、同じように並べてみせた。
──驚いたな、そりゃあ気になるわけだ。
──うん、すごい偶然。思わず声をかけようか迷ってしまうくらい。
それが彼女と交わした、初めての会話だった。
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