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 聞けば、二人の買ったその三冊は、今年の本屋大賞に選ばれた上位三冊の本だという。俺は例によって、大衆受けする本を無意識に「選んで」いたというわけだ。たいていの人は冗談だと笑い飛ばすような俺の「特技」を、彼女はあっさり信じてしまった。  ──まるで、本の声が聞こえているみたい。なんだか羨ましいな。  私もそんな風に本と会話できたらいいのにと、何の恥じらいもなく口にしてしまえる彼女の笑顔が、なんだか無性にくすぐったかった。  その日から、俺は彼女と話すようになった。昼休みはもちろん、休み時間にも机にノートを広げ、少しでも早く課題を終わらせようと努める。浮いた時間は本を読んだ。そして図書館で会うときはいつも、お互いに読んだ本について話すのだ。  文系選択の彼女に比べ、理系の俺は課題が多い。野球に明け暮れた中学の頃とは違い、文化部の怠惰なライフスタイルに染まりつつあった高校の日常は、かつての目まぐるしさを取り戻した。心地よい忙しさは再び、俺に充実した日々を与えてくれた。  休日の外出が増えた。一緒に本屋で本を探した。読んだ本が映画化され、一緒に観に行ったこともあった。  全てが刺激的だった。  だから、気が付く暇さえなかったんだ。  そうだあの時、確かに俺は、彼女に恋をしていた。
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