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高校三年の夏、俺はかつて無い忙しさに追い詰められていた。学校行事の盛んなことで知られる我が母校は、最後の行事である、夏休み明けの体育祭へ向けて沸いていた。俺もまたその内の一人であり、企画・運営に熱を上げていた。
加えて、受験勉強も佳境だった。夏は受験の天王山。本来受験生が行事のことなど考えている暇など無いのだが、流石は地域に名高い我が母校。ろくに校則も作らず、進学校のくせに十月近くまで行事に浮かれるそのバカげた校風が、俺は大好きだった。
しかし、それが逆に俺を追い詰めてもいた。図書館にこそ何とか通えていたものの、課題や仕事に追われた俺は、実に二ヶ月もの間、一冊も本を読むことができなかったのだ。
俺は彼女の話す本の話を、ただ聞いていることしかできなかった。
彼女は俺に対して、明らかに気を遣っていた。
無性に申し訳ない気がして、ただ謝ることしかできなくて、それでも彼女は、変わらず俺に笑顔を向けた。優しくて、暖かくて、どこまでも愛おしい、笑顔、笑顔――。
俺の中で、何かが壊れた。
全てを投げ出して、俺は、逃げた。
次の日も、また次の日も、体育祭が終わった後も、卒業式の帰り道も、俺は図書館には行かなかった。電話にもメールにも、一切返事をしなかった。
あれから彼女とは、一度も会っていない。
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