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「またまたぁ、本当は気付いてたんじゃないの? 意地張っちゃってさぁ」
「偶然ですよ、俺はこれが読みたかったんです」
「はいはい、“呼ばれちゃった”のなら仕方ないね」
大げさに肩をすくめてみせる。どうせ言っても信じてはくれないので放っておけばよい。再び本に向き直ると、興が削がれたのか、いかにもつまらないといった様子でだらだらと持ち場に戻って行く。
「どうせならその『テンキューの何とか』ってやつを書いてくれた方が、店としてはありがたい気がするんだがね」
「去年ですよ、映画化されたの。売れ時なんてもうとっくに終わってますよ。どの本でも大差ないと思いますが?」
「ふむ、まぁ、それもそうかぁ」
去り際の捨て台詞をあっさり返され、のそのそと去って行く。もっとも、反論とは名ばかりな、経営の経験など無いアルバイト風情のでまかせに、果たしてどれ程の説得力があるものか甚だ疑問ではあるのだが、例によって彼はそこまで深く考えなかったようだ。適当なのは、案外お互い様なのかもしれない。
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