1/5
前へ
/20ページ
次へ

「そろそろ店じまいだな、そっちはどうだ」  帰り支度をしていた私は、念のため今日の業務内容リストに目を向けた。 「新しく入荷した本は指示通り並べておきましたよ。それと、来月入荷の──」 「あ、違う違う。今週の本のことさ」 「あぁ、それならちょうど読み終えたので、早速書き始めようと思っていたところです」 「おう、ところでよ、その本についてなんだが」 「ええ」  思わず身構える。久しぶりにまた本のリクエストをするつもりだろうか。もはやとうに諦めたものだと思っていたのだが、さて。 「どんな話なんだ?」 「は?」  だから、その言葉に意表を突かれた。 「本のあらすじですか、どうしてまた急に」 「なんだよ、俺だってたまには気になる本ぐらいあるんだよ」 「ええ、それは、まぁ」  擦れた声が出た。酷く狼狽していた。彼が本に興味を示したことについて。  より正確に言えば、私の読んだ「あの本」について。  私は机の上に置きっ放しにしたままの、件の本を手に取った。  本のタイトルは、『時を刻む柵(しがらみ)』。  サブタイトルは、[Chronostasis Chronicle(クロノスタシス・クロニクル)]。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加