拝啓、瞼の裏の君へ

２

「で、どんな話なんだ？」
「そうですね──」

　つい言葉に詰まった。
　何故、「今」なのだろう。
　何故、よりによってこの物語を私は「選んで」しまったのだろうか。
　動揺を悟られぬように、私はなるべく彼の目を見ないで話そうと決めた。

「自殺しようとする幼馴染みの少女を救えなかった、ある少年の物語です」

　その世界には「虚構の顕在化現象」と呼ばれる怪異が存在する。人が精神に多大な負荷を受けると、頭の中でトラウマと化した負のイメージが現実に顕れるというのだ。主人公の幼馴染みである少女は、周囲から無視され続けるいじめを受け続けたことで、自分が透明人間となり、他者から認識されなくなってしまうという虚構に蝕まれてゆく。彼女は徐々に誰からも認識されなくなり、やがて人々の記憶からまでも消え去ってしまう。彼女を唯一認識することができた主人公は、彼女を勇気づけ、支えとなることを誓うが、ついには彼でさえも彼女を認識できなくなってしまった。
　最後の拠り所を失った彼女は、とうとう自殺を決意する。せめて己の存在が、完全に消え去ってしまうその前に。自分が、まだ彼の中に居るうちに。