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「彼は、自ら作り出した幻影に詫び続けることで、救われた気になってしまうんです。彼女の墓に背を向けて、ただ何もない虚空へと、何度も、何度でも」
彼女を忘れることを恐れるあまり、主人公は彼女を見て見ぬふりをした。彼女の亡霊は、そんな彼の背中を見つめて、ひとり涙を流すのだ。
そこまで話してようやく、私は顔を上げた。彼は目を瞑ったまま腕を組み、何やら考え中のようだった。いつになく真剣なその様子が、余計に不安をかき立てる。
彼は、この物語に何を思うのか。
この胸騒ぎが意味するものは、何だ。
「なんか昔、そんな歌あったよな。ほら、墓の前で泣いたってそこに俺は居ないんだぞって感じのやつ」
返ってきたのは、いっそ見事なまでに的外れな感想だった。拍子抜けして、心の底から溜め息をつく。
「うっわ、なんだその顔。割といい表現だったろ、今の」
「帰ります。お疲れ様でした」
「待てよ、何か言えよ、おい」
「逆、でしょうがっ!」
思わず大きな声が出た。知ったことか、もう我慢ならん。
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