違和感

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「―――高城さんっ!!」 掻き乱された感情に煩わしさを感じる最中、背後から私を呼ぶ声が飛んで聞こえた。 それが藪中だとわかった途端に、昨夜のように又追いかけてきたのかと…全く同じシーンに笑えてきた。 「…何ですか?」 様々な感情を押し殺し、私は得意の無を貫きながら、まるで能面を被った表情でゆっくりと振り返る。 「高城さん…今のは、違いますから…!」 弁解するような物言いにピクリと眉が動く。 「何がです?」 「だから…彼女は、取引先の御令嬢で…別に何も関係はなくて…」 「貴方、さっきから何を言っているのです?」 「えっ?」 自分でも吃驚するぐらい、冷たく凍てついた声を発していた。 「さっきの彼女がどうだとか、私には何の関係もありません。そうでしょう?」 「………っ!」 藪中はグッと言葉に詰まっていた。おそらく神原の存在を気にしているのだろう。 昨夜の事も絡み、確かに下手な事を言えないと、彼なりの配慮なのかもしれない。 そんな彼に言葉を畳み掛ける。 「何をしているのです?可愛い彼女を放っておいては駄目でしょう。私は神原さんと帰りますので…。デートを楽しんで下さいね」 藪中に頭を下げた後、私は神原の腕をグイッと引っ張る。 「えっ!?あ、おい…高城っ!引っ張るなって…!」 神原のそんな制止すら、今はどうでも良かった。 藪中から距離を取らないと、早く離れないと…得体も知れない感情に、自分が支配されそうだったからだ――。 (――何だろう。酷く苛々する…) 今まで感じた事のないその違和感は、私の心に浸透しては苛むのだ。 「た、高城?…一体どうしたんだよ~?御曹司君と仲悪いのかよ?」 「………」 引っ張られた神原が、遠ざかる藪中の姿をチラリと見た後、問いかけてくるが私は何も答えずにいた。 その様子を、どれ程までに藪中が鋭い視線を注いでいたのか全く知らないまま、人が多く行き交う大通り沿いの道を神原の腕を取り進み歩く。 意思とは関係無しに、心の葛藤がずっとずっと続いていた。
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