激高

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藪中に先日想いをぶつけられ口付けられた事も、昨夜彼が女性と逢瀬を楽しんでいた事も、全部頭の中から追い出してしまいたい。 あんな男に、心を乱される時間が勿体無いと、今の私には最優先ですべき事があるのだと頭では理解している。 それでも、ふと思い出すのは、あの夜交わした口付けの感触や、腰を引き寄せられた腕の強さだ。 それは忘れるどころか、徐々に熱を帯びるように日に日に身体を蝕んでくる…そんな言葉が当て嵌まった。決して認めたくないけれど――。 「……もう、鬱陶しいにも程がある」 生憎、今朝から曇り空で窓からは冬の日差しは一切差し込まず、どんよりとした空気に包まれていた。 そんな肌寒い研究室でファイリングした資料をパタンと閉じては溜息をつく。 「えぇ!?それって僕の事!?」 先の言葉を無意識に口にしてしまっていたのだろう。それを聞いた宮本室長が過剰反応を示した。 「いえ…違います。でも、さっきからパラパラと紙を捲る音と、厭らしい笑い声はウザったいですけどね」 纏めた資料をスチール式の書棚に並べ、次に整理するファイルを探しながら淡々と言った。 「……えっ!?」 流石にビクリと反応した宮本室長は、グラビア雑誌を慌てて閉じ仕事を再開する素振りを見せる。 基本的に宮本室長はエンジンがかかるのが遅い。否、遅過ぎる。こんな状況下であっても、本当にお気楽過ぎて、逆に悲しくなってきた。 「あ、高城君。藪中さんとは良好な友情を築けてる?彼は賢いだろう?僕も一度ゆっくり語り合ってみたいなぁ…」 次は世間話かと、しかもあの藪中の話題というだけで疲労感が押し寄せた。 そんな感情がストレートに顔に出ていたのか、宮本室長は苦笑する。
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