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有り得ない予感が過る中、冴嶋と矢木、両者の会話が始まる。
「参ったよ…。所長室に居てもオメガの発情フェロモンが漂ってきて気が気じゃなかったよ」
冴嶋はガラス越しに、発情で悶える瑞貴に向かって舐めるような視線を送っていた。
その瞳は血走っており、今にでも瑞貴に襲いかかりになりそうな、飢えた雄の目をしていた。
「――っ…」
欲を剥き出しにする冴嶋に、一気にゾワリと全身に鳥肌が立つ自分がいた。
「ほぉ…そうですか。正直、我々ベータにはそこまでの匂いかどうかは分かりませんが…やはりアルファにとっては敏感な匂いを放つものなのですねぇ…」
矢木は満足気に笑っては、続けて瑞貴に言う。
「ほら瑞貴…。求めてやまないアルファ様が来てくれたぞ?」
『あっ…あ…っ…あ!…早く…っ…早くぅ…っ…!』
冴嶋の姿と匂いを感じ取ったのか、瑞貴は理性を飛ばし必死にアルファを求めていた。
「見て下さい。投与してから、すぐに激しいヒート状態に入りました。これは良い結果が期待出来ます」
得意気に語り始める矢木だが、冴嶋はそんな話をどこか落ち着かない様子で聞いていた。
完全にフェロモンにあてられているアルファの姿がそこにあった。
「薬の効果ですが、ヒートを引き起こす際に排卵効果を強く促し、受精率や受胎率もアップさせる作用を引き起こします」
「そうか…。で?アルファである私が、あのオメガに「種」を仕込んでしまえばいいのだろう?」
「はい。受胎を確認した上で、結果的にアルファを身籠る事が出来たのなら、そのまま妊娠継続させます。もし他の二種の場合は…」
「っ…!?ちょっと待って下さい!」
想定される悍ましい内容に心がみるみる怒りに支配され、こんな事は絶対に許し難いと…その気持ちが声を張り上げ、二人の会話を中断させていた。
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