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「何だね高城君。今、センター長に大事な事を説明しているんだ」
矢木が煩わしそうに目を細め、冴嶋もまるで私を邪魔者のように鋭い睨みを利かせてきた。
アルファのオーラが強く漂う瞳に怯む自分がいたが、そうは言ってられない。
こいつらは瑞貴を妊娠させようとしているのだ。しかも実験という名の――。
「彼の…瑞貴の了承は得ているのですか!?このままアルファと肉体関係を持つと受胎率は…」
「高いだろうね。しかも今夜は通常よりもその確率は高い。さっきからそう言っているじゃないか。それがどうかしたのかね?」
「どうかしたのかって…矢木室長!貴方、彼の意思や人権を全く無視しているじゃないですか!」
握り締めた拳が酷く震えていた。実験で一人の人間を受胎させるなんて、あってはならないのだ。
「無視?違うね…言っただろう?瑞貴とは何もかも交渉済みだ」
「そんなバカな話が…身体への負担が大き過ぎる!それに受胎させてどうするのです!?アルファが産まれるとも限らないじゃないですか!」
「それも今聞いただろう。全て「実験」なんだよ…高城君」
「―――は?」
常軌を逸した矢木の考えは全く理解出来なかった。
「妊娠確定反応が出たのと同時に血液検査をするんだよ。染色体異常の検査を行うようにね…」
「…まさか…信じられない。人の生命ですよ…!」
激しく首を振り、矢木を全否定する。
「聡いねぇ…君は。まさにその通りだよ。検査結果で胎内の赤子がアルファで無いのなら、堕胎させたらいいだけの話だろう?」
「―――っ!」
全身に戦慄が走った。ここ数年の医療技術で、高額な費用こそかかるが、特別な血液検査で胎内の子供がどの種の人間か調べる事が可能になった。しかし確率的にはバラつきがあり、実用化には至っていない。
矢木は理研の研究者という立場と、冴島の権力を使いそれを試みようというのだ。
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