激高

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「―――?」 不思議に思い視線を正面に戻すと、今の今まで冴嶋と瑞貴を確認出来ていたガラス張りの壁は真っ黒なスクリーンに変わり、スピーカーからは全く音が聞こえなくなった。 「…流石に他人の性交場面を見るのは刺激が強いからねぇ…。とにかく事が終わるまで待機という訳だ」 気を使っていると言いたげな矢木の台詞に、怒りが再燃する。 「…矢木室長…よくも…こんな…!こんな非人道的な事が出来ますね…!」 喉から振り絞るように出した声は情けないぐらいに震えていた。 「ははっ!そんなに怒る事はないじゃないか。この実験はどうだ?勉強になっただろう?ん?」 「ふざけないで下さい!こんな事…こんな…っ…!狂った実験など!」 身体の痛みを堪え、フラリと立ち上がりながら抗議する。 「そうでもないさ。これでもし、アルファが産まれでもしたら、それこそ素晴らしいじゃないか!」 矢木が両手を大きく広げては笑っていた。まるでこの研究実験を讃嘆するように。 何が素晴らしいのだと、私は再び激しく首を振る。 「その為には…オメガを好き勝手扱っても良いと…!」 「そうだ。何故ならオメガは性交をして生き甲斐を感じる人種だからね。だったらそれを利用して出生率アップに繋げ、尚且つアルファが産まれたら最高じゃないか。ある意味オメガの価値が高まるだろう?」 「価値…ですって?」 一体この男は「オメガ」を何だと思っているのだと、ひとりの人間として扱う気は無いのかと、怒りを通り越して悲しみの感情が生まれた。 矢木に対する激しい怒り、アルファという人種なら何をしても許されると思っている冴嶋、この実験を黙認する理研。 全てが一緒くたとなり、大きな憎しみとなって心が支配されそうになる。 今、黒くなったガラスの向こうでは、冴嶋が瑞貴をまるで性の玩具のように扱っているのだ。 これ以上ここに居たら、気が狂いそうだった。
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