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「そうだ価値だ。オメガのような下等な人種に、この私が活躍の場を与えてやっているんだよ。しかも今回、アルファであるセンター長自ら協力して下さった…光栄だと思わないか?」
「協力?あんなの、ただ性欲に支配された…見るに堪えかねない厭らしい姿です!」
「口を慎みたまえ!冴嶋センター長は高貴な人種…アルファだ!」
叫び言った私に向かい、矢木が険しい表情で一喝を浴びせては続けてくる。
「それに、宮本の元にいる君が、あまり良い立場ではない事ぐらい既にわかっているだろう?」
「だから何です!?宮本室長を…汚い権力を使って理研から追放して、後々に私を…この研究室に招き入れてやろうとでも言いたいのですか!?」
「はははっ!それは君の態度次第だよ」
一体何処に笑う要素があるのか理解に苦しむ。
そんな私達のやり取りを、柴田ともう一人の男性研究員は戸惑った様子で見ていた。
「――態度次第も何も…矢木室長から教わる事は何もございません」
「――何?」
機嫌を損ねたのかピクリと矢木の眉が吊り上がった。
「貴方の下で研究を続けるぐらいなら、私は迷わず日本理研での白衣を脱ぎ、研究職を辞します」
「言うねぇ…流石宮本室長に躾けられた狗だ」
「では貴方は冴嶋センター長や井ノ崎大臣に媚び諂う、ある意味従順な狗とでも言いましょうか?」
皮肉を大いに含んだ言葉を聞いた矢木の顔は一層険しくなっては負けじと言い返す。
「君ねぇ…本当に生意気だよ…その美人な顔をいつか本気で泣かしてやりたいねぇ」
とことん嫌な男だ、とことん腐った男だと…。もう限界だと感じた私は、瑞貴の事が気になりつつも、研究室を後にする事に決めた。
「これにて失礼します。わざわざ実験を見させて頂き、ありがとうございました」
形だけの一礼をし早々に立ち去る為、矢木の前を通り過ぎる。
「…そうだ高城君。改めて忠告しておいてやろう!」
扉に手を掛けた時、背後からそう言い放たれ、私は一切振り返らず動きのみを止めた。
「この理研に…化学界に必要なのは宮本なんかじゃない。この私、矢木英治だ…!」
何かと思えば存在の誇示かと…投げ掛けられた台詞に食って掛かりたい衝動に駆られた。
「………失礼します」
しかし、これ以上矢木と無駄な言い争いをしても意味が無いと、私は怒りに任せ扉を力強く引き開き、矢木の研究室を後にしたのだった――。
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