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(―――クソ…!あいつら腐ってる!)
月明かりに照らされた静かな廊下を、怒りに支配されながら歩いていると、自らの足音が大きく反響していた。
逆立った感情が落ち着かない所為か、鼓動が頭痛を引き起こすぐらいに大きく鳴っていた。
(…彼、瑞貴は、大丈夫だろうか)
本当なら彼を無理矢理にでも連れ出したかったが、同意の上だと言われたら、もう手だしなど出来ない。
冴嶋が姿を現した時点で、私には実験を阻止する権利は無いのだ。
「――オメガを…何だと思っているんだ…っ!」
立ち止まり感情のまま壁を拳で叩く。手からは先程冴嶋に突き飛ばされた時よりも強い痛みが襲った。
許せなかった。オメガである瑞貴を実験体として好き勝手扱う矢木も、今頃彼を欲望のまま支配するアルファである冴嶋も――。
(瑞貴も…あれで本当にいいのかっ…!)
彼は確かに発情しアルファを求めていたとはいえ、あんなのは間違っていると奥歯をギリッと噛み鳴らす。
その時だった…。ガタンと大きな音が、間近から聞こえたのだ。
「―――?」
静かな廊下には違和感のある音だと周辺を見渡すと、音の正体は、目の前にある部屋の中からしたようだとわかった。
そして立ち止まったその場所が、第三会議室前だとも。
この会議室は狭い造りのため、普段あまり使われる事が無い。誰も居ないはずなのに何故物音なんてするのだろう。
(何かが落ちたのだろうか…それとも…侵入者?)
見過ごすわけにはいかないと、少しの恐怖感を抱きながら扉に手を掛ける。鍵は掛かっておらず、ドアノブを回す音が小さな金属音を立て、開閉音が薄暗い廊下に響いた。
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