予兆

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「藪中さん!世の中には意外と粉薬が苦手な人が多いのですよ!それを笑うだなんて!」 「いや…そうなんですけど…!誉さんのイメージじゃないって言うか、何て言うか…アハハハハ!」 尚も笑い続ける藪中は、揶揄っているとしか言い様が無い。 「イメージってなんです!?藪中さん、貴方は薬品を多く取り扱う会社の次期後継者でしょう?粉薬が苦手な人の意見も取り入れるべきですっ!」 「いや、まぁ…そうなんですけど…まさか高城さんが、粉薬を駄目だと言い出すとは思いもしなくって…ハハッ!」 「いつまで笑っているんですか!?本当にもう…!とにかく粉薬は要りませんから、これを飲みます」 元の錠剤薬を手にした私は、室内設置されてあるウォーターサーバーへ水を汲みに行く。そして決められた数の薬を口に含んだ後、水で胃の中に流し込んだ。 「誉さん…それで研究はどうなんです?」 薬を飲み終え、藪中の精子の入った容器をポケットから取り出したところで尋ねられたので、彼の方へと向き直る。 「――どうもこうも…貴方の精子って化け物級ですよ」 「えっ…!?ば、化け物?」 藪中の頬が大きく引き攣っていた。流石に失礼だったかと思ったが、良い意味で言ったつもりなのだから訂正するつもりは無い。 「はい。運動率も高く、奇形もぼほ皆無です。環境ホルモンが影響する時代にしては珍しいです。…逆に引きました」 「何だか…良い事なのに、あまり褒められてる気が…しないです…」 「そうですか?褒めていますよ。とても優秀な種です」 複雑そうな表情の藪中の傍を通り過ぎ、私はマスクと手袋を装着する準備に取り掛かる。今から精子を遠心分離器にかける為だ。
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