予兆

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「実はそのパーティーに…井ノ崎大臣も出席します」 「え…?」 突然の言葉に目を丸くした私に藪中は続ける。 「そこで井ノ崎と誉さんの二人が話を出来る場を作りますので、誉さんも是非このパーティーに来て頂きたいんです」 「それって…」 「はい。俺が父に掛け合い、井ノ崎を招待しました。貴方の為に」 「…誰もそこまで頼んでいませんけど」 気がつくと突っかかる言葉を放っていた。 だってそうだ…私はそんな事一言も頼んでいない。 確かに先日、井ノ崎に研究の件で直談判しようと必死の様子を彼には見せていた。 頬を打ったあの日…自分なら力になれると言っていた藪中の深意を改めて解する中、今の状況を整理する。 そう…私と藪中の間には、確かな取引き関係が成立しているのだと――。 「確かに頼まれていませんけど…取引き期間は誉さんの為にどう判断して、どう動こうが…俺の勝手ですから…でしょ?」 藪中は伺うように首を傾げては微笑を浮かべていた。 「………」 良いのだろうか…よくよく考えたら、私にとってメリットだらけの取引きに思えてならない。 精子提供の件も井ノ崎の件も、全て藪中自身が労力を使う事だろうにと。 どう返事をしようかと迷っている内に、藪中は話を進める。 「とにかく井ノ崎の件は俺に任せて下さい」 そう言って白衣のポケットから一枚の券を取り出すと私に手渡してきた。 「…T国ホテル、また高級な場所で開催されるのですね」 券には日本トップレベルの高級ホテルの名前と共に、藪中グループ・創立記念報告会と表記されていた。 「一応、各界の著名人や団体のトップが多く参加される予定ですからね」 「…私なんかが出席したら、逆に場違いで目立ちませんか?」 こんな研究者の端くれなんかが参加してもいいのだろうかと、戸惑いが生じた。
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