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「―――っ、あ…っ!…はっぅ…!」
彼に直に触れた為か、身体が灼熱のように熱くなった時、私は叫びながら藪中に願い乞うた。
「藪…中さんっ…助けて…下さい…っ!もう…もう…っ」
何て浅ましいのだろうか…何て自分は勝手なのだろうか…今まで彼を邪険にしてきたくせにと。
「っ…誉さん――…俺っ…!」
抑え切れない性欲がいよいよ互いの理性を崩しにかかる。
「藪中さん…っ…藪中さん…私は…本当は…っ!」
発情なんてしたくなかったのに…アルファなんか求めたくないのに…。
初めて訪れた発情期に悦がり苦しみ阻止しようとしても、もうどうしようもなかった。彼を思えば思う程、近くに感じる程熱が止まらない。
「っ…誉さん、早く…人目のつかない場所へ移動しましょう…」
藪中は自身のスーツジャケットを素早く脱ぐと、私を隠す様にして頭から被せてきた。
そこに籠った匂いにすら、嗅覚が敏感になる。
「――っあ…!」
そんな中、突然身体が宙に浮いたのだ。藪中が私を軽々と抱き上げたのだと知った。
「誉さん…少しだけ…ジッとしていて下さいね」
藪中はそのままエレベーターホールへと向かい、即座に上階へ向かうボタンを押した。
エレベーターを待つ中、人々のどよめきが聞こえる。
「おい…やっぱりあれって…!」
「うわ~フェロモンだだ洩れ…」
「ってかあの人…藪中グループの…?」
発情した私の存在を隠す様にして、藪中は抱き上げる腕に力を込めていた。
シャツ越しに感じる彼の心音がドクンドクンと激しく脈打っているのがわかった。
あぁ、彼も限界なのだと感じ知った瞬間だった。
この後どうなってしまうのだろう…。けれどそんな事より、発情期の恐ろしさを感じる以上に、この狂うような熱情を、一刻も早く藪中にどうにかして欲しかった――。
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