叫ぶ本能

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――藪中によって抱きかかえられ連れて行かれたのは、ホテルの上層階に位置するスイートルームだった。 扉を開け放ち入室した途端、彼は私の身体を都会の夜景が一望出来る窓際に設置されたキングサイズのベッドに少々乱暴に沈め置いた。 「っ――!…ぁ…」 高級なマットレスが背の衝撃を吸収し身体が小さくバウンドする。 室内はベッドサイドに設置された照明のみが点灯されており、煌びやかな街の光りがぼんやりと空間を照らす中、互いの姿を間近で確認した。 「―――…誉さん…まさか、オメガだっただなんて…っ!」 そんな薄暗い室内で、藪中は私の両脇を囲む様にして両手をベッドに置き、長い脚で身体を跨いでいた。 言葉こそは丁寧ではあるが、その顔には全く余裕が無く額からは汗が滲み出ていた。 捕らわれてしまった…もう逃げられないと悟りつつも、抗う気持ちはわいてこない。 オメガの発情フェロモンに必死に耐えながら、野獣のように瞳を光らせ尋ねる彼を見た時、心臓が壊れそうなぐらい早鐘を打った。 あぁ…アルファだと…アルファが此処に…今目の前にいると心から歓喜し身震いした。 「――っ、ぁ…あ、藪中…さんっ…助けて…お願い…っ!」 彼の存在を今まで以上にまざまざと感じた今、そう乞う事しか出来なかった。 藪中の腕に自らの手を這わせ、この身体中を暴れ狂う熱をどうにかして欲しいと強請る。凄まじい発情は正常な判断も奪いにかかってきていた。 「誉さん…だって、そんな事したら…!」 それでも藪中は尚も必死に堪え、私のはしたない願いを思い留まらせようとする。 本来なら発情したオメガに近付いたアルファは我を失ってもいいはずだが。 あの夜、実験という名の元、瑞貴を抱いた冴嶋の行動が全てを証明していたではないかと。現に藪中も反応していた。 今はそれ以上に間近にフェロモンを感じているのだ。普通に喋る事も難しいだろう。 それなのに藪中は冷静さを保とうとする。最後の理性の糸が切れないようにしているのが目に見えてわかった。 それは私の心を思うが故の全力の抵抗なのだろうか?
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