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「えぇっ、それは嬉しいなぁ!藪中グループの御子息にそう言ってもらえるのは、なかなか感激だよ~」
歯に浮くようなお世辞を言葉にした藪中に、宮本室長は大いに喜んではテンションを上げる。二人は互いを事細かに紹介し合いながら固い握手を交わしていた。
果たしてそれが本当にお世辞なのかはわからない。
ただ、そう思えてしまうほど自分はこの男を毛嫌いしてしまう。
出会ったばかりで特別何かをされた訳でもないのに、先程からどこか気持ちが落ち着かないのだ。
もしかして、自身の細胞の中に眠るオメガの本能が、「アルファ」という存在に少なからず反応してしまっているのだろうか?
馬鹿な…自分は発情すら訪れない不出来なオメガで…今の今まで何もなかったのだ。
それはきっとこれからも変わらない…そうに決まっている――。
自問自答しながら、未だ握手を交わし談笑し合う二人に伺うような視線を送った時だった。
すると、その視線に気付いた宮本室長が、こちらの方を手のひら全体で指し示しながら、藪中に私を紹介し始めたのだ。
「藪中さん。彼は私の右腕で、理研のクールビューティーと謳われる副室長の高城誉くんだ。美人だろ~?」
「ちょ、ちょっと、宮本室長やめて下さいよ!」
紹介の仕様に戸惑いを隠せない。
大体、一体誰が何処で自分の事をそう言っているのだろうか。実際聞いた事も無いというのに。
宮本室長が勝手に作り上げたとしか思えない。
「高城誉さん?」
藪中は、私の名前を確認するように、低くも魅力に満ち溢れた声で囁いた後、何かを思い出したかのように目を見張った。
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