狂気

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「矢木室長…あなたの罪は化学界から見ても大きい。人体実験の発案、実行に及び、生命の尊厳を踏み躙った行為…断じて許す事は出来ない!」 それは、悪を積み重ねてきた憎き敵に正義の鉄槌をくだすかのようで、藪中が放つアルファのオーラ同様、相手を畏怖させる迫力があった。 「宮本…っ…貴様!どんな立場があってこんな事が言えるんだっ!!」 連行される矢木は全身を更に暴れさせながら、連行されようとするのを足で踏ん張っていた。 「立場…?あぁ…そうだ。もう一つ大切な事を忘れていたよ。明日からこの理研の体制は大きく変わるからね」 「新しく…だと!?」 「うん、そう!だって新しいセンター長は…この僕だからね」 「な、何っ…!?」 それに反応したのは冴嶋の方だった。今から罪を問われ本部で然るべき処罰を受ける立場であっても当たり前の反応だろう。 「しょうがないよ。世界化学機構の意向であり決定事項だから…。日本理研は事実上解体され、理事や役員も含め全て一新される…貴方達二人に日本理研での席はもう無いんだ」 最後はいつもの笑顔で宮本室長が締め括った。 「じょ、冗談だろう…?」 矢木が力なく声を吐いた途端、とうとう気力を失い全身の力が抜けたらしい。そして、今の話でショックを受けた冴嶋と共に調査員によって部屋の外へと連れ出された瞬間――… 「――くっ、くっそぉぉぉっ!宮本…っ!藪中も…っ!絶対に許さんからなぁっ…!」 廊下には全てを振動させるぐらいの矢木の怒号が響き渡っていた。 「―――静かに!!」 それを英語で叱責する調査員の声もまた大きかった。
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