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「――これから状況は目まぐるしく変わります」
少し間抱き合った後、藪中が軽く身を離し、強い決意を込めた眼差しを向けてきた。
「状況って…」
「日本が大きく変わろうとしているという事です…それも一気に。解散選挙で国民の真意を問い、政権交代が成された後、化学界も含めた各分野も、三種の性の柵も全て変わります…。誉さんが言う、オメガの方も生きやすい生活へと。ゆっくりかもしれませんが、きっと変わっていきます」
「どうして…そんな事…」
また同じ事を尋ねていた。違う、聞きたい事は他にもっとあると。すると藪中は困惑気味に眉を下げながら言った。
「どうしてって…誉さんが理想とする世の中に一歩でも近付けさせたくて…俺も微力ながら…」
「だからっ…どうして貴方がそこまでするんです!…それにっ、井ノ崎の件も…!」
「そんなの決まっているじゃないですか…何回も言いましたよね?――誉さんが好きだからですよ」
「――――っ…!」
変わらぬ想いを真っ直ぐにぶつけられた事で、痛い程胸が高鳴った。
「それ以外に俺が動く理由なんてありません」
「………っ、だからって…」
「すみません誉さん…」
藪中は再び謝った。次は一体何に謝罪しているのだろうと、顔を伏せる彼の表情を探る。
「…あの夜は、本当にすみませんでした。俺は…誉さんの心を半ば無視して行為に及びましたから…。あれからずっと考えていたんです。誉さんの…自分の意思とは反した運命なんて誰が好き好んで受け入れたいと思うかって言葉を…」
「っ…あれは…!」
違うと口から出る前に藪中は続けてきた。
「…確かにそうだなって思いました…。それでも…俺は…っ…」
俯いていた顔を上げた藪中が情熱を秘めた目で私を射抜く。
「それでも俺は…っ!誉さんが好きです…!運命の番とかそれ以前に、貴方が愛おしくて堪らない…!」
「―――っ…!」
肩を大きく揺さぶられては真摯に愛を訴えられ、身体中に電流が駆け抜けた。
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