溶け合った心

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答えたいのに、あまりの激情に触れ、痺れてしまった喉は声を発する事が出来なくなっていた。 それ程までに胸の鼓動は強く大きく打っていた。 「誉さんは…っ!誉さんは…どうなんですか?貴方の本当の心の声を…俺は聞きたい…」 切に願う藪中の瞳は切なげに揺れていた。オメガとして発情し、自分だけが苦しいと思っていたけれど、それは違ったのだとひしひしと胸に感じた。 この藪中路成は、運命という強い鎖を深い愛で決して離さず、その想いを残酷なまでに無下にしてきた私を全力で愛してくれているのだと。 それだけで充分だった。だって彼はちゃんとその中に私を見ている。 オメガだとか人種とか、そんなものじゃなくて「高城誉」一人の人間として、ちゃんと初めから見つめてくれていたではないか。 だからこそあの時彼は、項を噛まなかったのだから。 運命を怖がり逃げていた。藪中自身を見ようともしなかった自分は本当に最低な人間だ。 でも許されるのだろうか…これから日本の状況は変わると言えども、世間ではまだ底辺に位置するオメガである自分が、高貴なアルファを求めて良いのだろうかと。 オメガとして生きる自分が未だに想像出来ない。そんな戸惑いや不安が生まれ黙っていると、藪中の溜息が聞こえた。 「…どうして、何も言ってくれないんですか…そんなに運命が嫌ですか?…俺が、嫌いですか?」 「―――っ、ち、違いますっ!」 彼にしては自虐的な台詞を聞いた時、声を瞬時に張り上げていた。 それはとても震えていたけれど、やっと喉に突っ掛かった物が取れた気がした。
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