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「―――貴方の種、頂けます?」――と。
「……はい?」
「だから…貴方の「精子」を頂けるかどうか聞いているのです」
直球な問いに、その若い男は目を見開き驚愕する様子を見せた。
しかも衣服が乱れた下肢は、未だ寛げられたままだ。
雄の象徴のそれは、つい先程爆ぜた所為か、生々しい姿を晒しながら白く濡れ塗れていた。
それと同様に私の手も――。
何とも穢らわしいと、掌を見つめた途端一気に嫌悪感が込み上げる。
早く、早く…この手の隅から隅まで洗浄したいと。
目の前に居るこの男は、どこから見ても完璧で視覚すら攫ってくる。
見れば見るほど、腹が立つぐらいに整った顔立ちをしているのも事実だ。
逞しくもバランス取れた身体の持ち主で、その頭脳は正に明晰。
人類の頂点に位置すべき人間だと、誰しも言うだろう。
何故なら、生まれた時点でそう決まっているのだから―――。
そんな人間を、私はこれから自己の願望を満たす為に利用する。
そこには、報復に似た感情が含まれているのかもしれないと、心のどこかで黒い感情が渦巻くのがわかった。
今から思えば、これが全ての始まりだったのかもしれない。
「運命」というレールに自ら飛び込んでしまった事を、この時の私は知る由も無かった。
けれども、ハッキリしている事が一つだけある。
私は…
「アルファ」であるこの男が…
藪中路成が大嫌いだという事だけは――。
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