白昼堂々の告白

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――それは数日後の朝の事だった。 衝撃が走るような噂が飛び込んできたのだ。 それを聞き付けた途端、出所するなり研究室を飛び出し、私はある場所へと足を運んだ。 行き先は、所内一階の南側に位置する総合事務局だ。 総合事務局は、理研の事務仕事や雑務を全て担っており、各研究室の管理も行う大切な部署だ。まさに頭脳部とも言えよう。 その事務局の前に到着すると、引き戸式の扉を開け放った。 そして、ある人物のデスク脇まで一直線にツカツカと革靴を鳴らし向かう。 足音に気がついた一人の男が、私を見た途端に「おっ?」と驚いた表情を向けてきた。 「―――神原さん!所内で噂されているお話、本当ですか?」 朝の挨拶など忘れてしまい、彼に詰めより問い質した。 「おはよう高城。やっぱり来たなぁ…」 「おはようございます…で?どうなんですか?」 「あぁ、本当らしいよ。厚生省が昨日事務局に連絡してきた」 そう話すのは同期入所の神原憲太(かんばらけんた)という男だ。 彼は椅子から立ち上がると、私を見下ろした。 その身長は大きく、体育会系の立派な体躯をしている。髪は爽やかなスポーツ刈りだ。 男らしく骨ばった輪郭に、くっきりとした二重が特徴的な彼は、間違いなく男前に部類されるだろう。 神原はベータでありながらも、とても優秀な男だ。彼無しではこの事務局は回らないと言っても過言ではない。 そんな神原は人が良いのか、私の事を何かと気にかけてくれ、事務的な仕事では幾度となく助けられてきた。 仕事終わりには何度も食事を共にし、これからの理研や化学界について語り合ってきた仲だ。
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