ブラックホールの先には

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ブラックホールの先には

過疎化が進む田舎にとっては、タクシーは無くてはならない住民の足だ。路線バスも、赤字続きでついにこの村を見放し、いよいよ自家用車に頼らなくては、町までの足が無くなり、無論高齢化が進むこの村では、運転もままならない高齢者はますます買い物弱者として困難を極めた。  田坂は、この村で唯一の個人タクシー会社を営んでいる。田坂もつい最近までは、町の工場で勤務していたのだが、不景気で会社が倒産。その上に、高齢の両親の面倒も見なくてはならなくなり、やむなくこの村に帰ってきたのだ。わずかな蓄えで個人タクシーの会社を立ち上げ、村人は大いに若い田坂の帰郷を歓迎した。若いと言っても、田坂も52歳。もう初老の域だ。この年では再就職もままならないだろうと考えての苦渋の選択だった。  ある日、田坂は客に頼まれ、隣町の病院までタクシーを走らせることになった。村は山を挟んだ二つの町のちょうど真ん中あたりに存在しており、そちらの町に行くには、山の中のトンネルを通らなくてはならなかった。     
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