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そのトンネルを抜けると、本当はもう一つ村があったのだが、そこはもうダムの底になっている。本当は田坂は、この村の出身であり、田坂一家は、ダムの計画とともに、今の家に引越しを余儀なくされたのだ。
田坂は過去に思いを巡らせた。田坂はその頃、小学高学年、確か5年生くらいだったろうか。今も名前を覚えている。初恋の相手、木下由香里のことを思い出していた。
木下由香里は、ざっくり言うとおてんば娘で、肌の色は浅黒く、それとは対照的に真っ白な歯が印象的な、健康的な娘であった。田舎の小学校なので、生徒は少なく、高学年だけでも合わせて10名くらいしか居なかった。女の子は3人ほどいたが、小柄で色白な女子は、他の男の子達に人気があり、ほとんどの男子はその子が好きだった気がする。名前は思い出せない。由香里はどちらかというと、ほぼ男の子みたいで、他の男子はたぶん同級生の男子のような感覚しか持っていなかったであろう。
蓼食う虫も好き好きというが、田坂も最初は由香里のことをそんなに女の子として意識はしていなかった。しかし、無防備な由香里は自分の体の成長のことも気にせずに、田坂に全く気を使うこともなく、大胆に田坂の前で着替えをしたりするものだから、田坂は由香里の体の成長に気付いてしまい、もうそこからは、モヤモヤした気持ちが止まらなくなってしまった。
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