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由香里は自分では意識していなかったかもしれないが、早熟な子供だった。大人びた由香里に、田坂はいつも振り回されてどぎまぎしたものだ。
田坂が由香里を意識しはじめたのは、体の成長だけではなく、彼女自身が田坂の後ばかりついてきて、一緒に行動したがったからだ。田坂は、彼女のある言葉を思い出していた。
「ねえ、ケン坊、ブラックホールって知ってる?」
黒い肌に映えるキラキラした好奇心に満ちた瞳で、彼女は田坂を見つめた。
「うん、宇宙のはてにあって、凄い重力で吸い込まれると光も脱出できないってやつだろ?」
田坂は何かの本で読んだ、うろ覚えの知識で答えた。
「ブラックホールに人間が吸い込まれると、どうなると思う?」
さらに田坂に由香里は畳み掛けてくる。
「さあ?押しつぶされて死ぬんじゃないの?」
そう田坂が答えると、由香里は意味ありげに笑った。
「私は違うと思うなあ。」
「え?じゃあ、どうなると思うの?」
「小さなカケラになって、バラバラになる。」
「やっぱ死ぬんじゃん。」
「違うよ。カケラになったバラバラの体がブラックホールを通って別の時空にまた形成されるんだよ。」
「別の時空?」
「うん。この世界と真逆の世界があってね、そこにまた形成されるの。」
由香里は時々、こういう難しくて不思議なことを言う子だった。
「生まれ変わるってことかな。」
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