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発掘調査が始まってほどなくして、ダム近くの森で少女のものと思われる骨が発見された。ブラックホールの向こう側に由香里が居ることを田坂は信じたかった。夕暮れ、田坂は由香里の墓をたずねて、花と線香を手向けた。誰も引き取り手の無かった由香里の遺骨を引き取り、田坂が自腹で建てた墓だ。
「ケン坊、ありがとう。」
逢魔が時が彼女を連れてきてくれた。
「ごめんね、君を助けられなくて。あの時、僕が・・・。」
田坂が自分を責めるように唇をかみ締めると、彼女は白い歯を見せて笑って首を横に振る。
ざわざわと森が騒ぐ風に揺れると、彼女の姿も消えてしまった。
田坂は、タクシーに戻り、ゆっくりと車を発進させた。
トンネルが近づいてくると、田坂はまたブラックホールを思い浮かべていた。
もしかしたら、何も憂うことも無いあの時代に戻れるような気がして。
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