希望の象徴

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世界に希望の象徴が現れて一年と半年。人類は未だに平和の中で生き続けている。 「……無い」 平和を作り、希望の象徴として君臨した男は、人がそう寄り付かない山の中にひっそりと家を建て、朝から苦悶の表情を浮かべて居た。 ふむ。昨日朝食用のパンを買っておいた筈なのだが……何処にも無い。入れておいた袋の中も、戸棚も、隠し扉の中にもだ。 「さてはユイだな」 俺はズンズンとこの家の住人の一人、ユイの部屋へと向かう。 家の周りには誰もおらず、とても静か故に足音が妙に大きく聞こえる。 扉の前に立つと、衣擦れの音が聞こえているので、開けるとお約束のパターンになりそうなのでノックをした。 「ユイ。パンを食べたのはお前か?」 そう尋ねると、衣擦れの音は無くなり、代わりに足音が聞こえた。やはり木造だと音が気になる。だがそれが良い。 ガチャッと開けられた扉からは、ピンクの下着を付けたボサボサのピンク髪の美人が顔を覗かせる。 「オッケー落ち着け。なんでわざわざ見ないように扉を開けなかったのに何故お前から開けた?」 「……」 「ああ、眠いのね。先ずは顔洗って来なさい」 そう言うと眠そうな表情で洗面所に歩いて行った。部屋の中を見ると、あまり片付けられていない服やパンがあった。てかお前じゃねーかとツッコミを心の中だけでした。 「おっはようございまーす」 「おはよ。取り敢えず服を着ろ露出狂」 ハイテンションで隣の扉から現れた少女、クレハ。黒の下着を身に付けているだけで、羞恥心が無いのかと頭を抱える。 「どうっすか?興奮しました?」 「しないから服を着ろ。髪も……うんまあ、寝癖はないか」 黒く長めでさらさらとした髪が左右に揺れる。とても女の子らしいのに発言と行動が女の子らしくない。 一体何を考えているのか分からないから女の子は困る 「朝飯準備するから着替えて……あぁ、調達しに行くぞ」 「パンがあったでしょ? 師匠は私のパンツでもいいっすけど」 「明日にでもオークションに出品しとく」 「冗談。大方ユイちゃんが食べたんでしょ? なら川魚でも釣って食べますか」 「そうだな」 取り敢えず服を着てくれと願い続けるが、クレハは外に出る直前まで服を着なかった。
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