霊界のニューウェーブ

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 それで文子は急いで学校近くのカフェ『Bi-hún』に向かった。そこは四人の溜まり場で、ここでよくネット小説の話をしたり、将来の夢を語ったりしている。  特に連はマスターの高木博之とも仲が良く、バラエティーなビーフン料理のレシピを教わり、春休みにはバイトをして店員の遠藤由美からも可愛がられた。 「幻の小説が復活したんだって?」  文子は店に入って来るなり順也と久美子に質問した。下駄箱で靴を履き替えて学校の玄関を出る時、スマホで小説サイトの掲示板の書き込みを見て知った。 「そうなんだよ。連が面談室で気絶した時、あの小説が投稿されてたんだ」 「変でしょ?」  連は窓側の席でヘッドホンをして、澄ました顔でiPhone9でマイミュージックを聴き、テーブルには氷の溶けたアイスコーヒーのグラスが置かれている。  順也と久美子の質問攻めにあい、リラックスモードに入ったのだ。  隣の席で順也と久美子が小皿のビーフンを分け合い、文子は連と向かい合わせの席に座って手を顔の前に出して指を鳴らした。 「まさか偶然?連、気絶って演技じゃなかったのか?」  文子に睨まれるのを連が横目で見て、ヘッドホンを少し外して聴こえないフリをして微笑む。 「ふざけないで答えなさい。心配したんだからね」 「それが、憶えてないらしいんだよ」 「ビリビリって痺れたのは嘘じゃないって」 「ふーん」  文子は納得してなかったが、連がヘッドホンを外してテーブルの上に置き、真剣な表情で「レン、嘘つかない」と呟き、この話題を終わらせようとする。 「ノイズは消え、森の湖畔は静まり返った。とにかく僕は元気だよ」  実際、連は瞼の裏に見たパスワードの記憶もなく、頭の中にデーターが流れ込みiPhoneが再起動して、小説サイトに投稿した事も知らなかった。  しかしiPhoneの設定を見れば、この世界には存在しないWi-Fiスポットに接続され、連の身体に霊的なエネルギーが流出した事に気付いただろう。
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