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『空耳?』
微かな雑音の中に『メーデー、メーデー、メーデー』と遭難信号が聴こえ、本の見張り台の上で連が耳に手を当てる。
その仕草が授業中の席にもリフレクションされ、順也と久美子が気になって連に視線を向け、文子もチラッと横目で見たが、連は姿勢を正して煙に巻き、想像の世界で男女のキャラにセリフを喋らせた。
それが物書きの病であり、一流クリエイターの癖。
『もちろん人生はそんな甘くない』
『そうね。嵐が吹き荒れ、帆船は高波に呑み込まれる。人生には越えられない壁があるわ』
ジッ、ジジー……という微かな雑音が気になったが、空想好きの連は頭の中で会話を続ける。
『そんな壁なんてぶち壊せ。アインシュタインもイチローもそう言ってる。maybe(笑)。僕は剣を掲げ、君を守りに行く』
(ジッ、ジジー……とチューナーのダイヤルがズレた雑音。それが一瞬、波長が合ったかのように少女の声がリアルに頭の中で響く。)
『レン…くん……面白い』
「エッ?」
連が驚いて声を漏らし、現実の世界に回帰して生徒たちの冷たい視線を頭から浴び、黒板に問題を書く景子先生と目が合った。
『what?』
お互い首を傾げて、授業中という事でサイレントで口パクをして疑問と不可解を伝え合う。景子先生は口に『チャック』。連は『頭を指差して『ボイス』、『ガール』とロングヘアーとボインのジェスチャーしたが、日頃の行いからジョークだと決めつけられた。
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