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「……俺は、[大阪の陣]に陣借りの真っ最中よ。今は豊臣方が城に籠もって出てこないから、[待ち]に入っちまったからな。あんまり寒い上に、食いモンも無くなってきたから陣を離れた」
「と、言うことは……[冬の陣]、1614年か……私は後に言われる[薔薇戦争]でランカスター側に着いていたのだが、泥沼の戦いにウンザリして逃げてきた……まぁ……」
騎士は溜息をつきつつ振り向いて、離れた席で、武者の酔っぱらった郎党に絡まれて困り顔になる少年従者に目を向ける。
「彼を一人前の騎士にしてやれなかったのが心残りだ。せめて、この世界で身を立てさせてやりたいものだが……」
「1480年代……文明12年と言うところか……逃げてきたと言うことは、あんたは戻る気はないんだな?」
そう呟いて、再びジョッキを取る武者に、騎士が逆に問いかける。
「先の話から察するに、貴殿は徳川方に付いたようだが、やはり戻るのだろう?」
「どうして?」
「戦の勝ちは見えているのだろう? もう少し待てば、カルバリン砲が投入されて、城方が和睦に応じ、挙句、堀を埋められて[夏の陣]……」
鎧武者はその言葉を遮る。
「最初は、戻ることも考えたんだがな……
確かに勝ちは見えたが、逆を言えば戦はそれで終わり……大御所様の世になれば、俺みたいな戦莫迦は居場所が無くなる……そうなると、付き従ってくれる郎党を食わせることも出きねぇからな。
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