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にぃと歯を見せ、水鬼は見慣れた調子にばりばりと頭を掻いた。
「わしは確か兄弟がずいぶん多くての。下ばかりだったはずじゃが、弟だったか妹だったか。案外とすぐに作れてしもうたから、もしかすると一度じゃなかったのかしれんな。他を何にも思い出せん。まぁ、それで良いんじゃ」
思い出と共に悲しさは取り戻さなかった水鬼に安堵して、呂色はそこに感謝を思い出した。
「確かに良い風呂、じゃないか、良い棺桶だった。俺は初めて自分の棺桶をもらえてうれしい。これからも大事に使わせてもらう」
素直な気持ちでそう伝えると、水鬼は困ったように顔を歪める。
「棺桶を有難がられる日がくるとは。しかも中に呂色殿が入るとなると複雑なもんじゃ」
「平気で桶の中に俺を入れた月白にもそういう感覚を教えてやってくれ」
再び矛先を向けられた月白はわざとらしく天狗の面を被った。
「忘れたか。お前達はとっくに私の庭の中へ入れられているのだ。その中でまだ大事に仕舞えるなら、悪いことなど何もない」
憤怒の面の赤さがそれこそ照れの赤面に見えて呂色は思わず笑ってしまったが、水鬼は忠臣らしく胸を抑えて頭を下げる。
織部と瑠璃はあまり入れぬ月白の住処に居ることを今頃思い出したかにくるくる駆け出し、月が降らせる白と遊び始めた。
あぁやっぱりこの庭こそが天国なのだろうと、呂色は昴まった胸のまま月白の胸へ飛び込んでいた。
月白の腕はその懐の深さを教えるかに柔らかく受け止めてくれ、いつもの甘い香りでくすぐってくる。
この幸せはきっとこの庭からあふれ出て、きっとみんなみんな幸せにしてしまうだろうと、呂色はやすらかに目を瞑った。
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