当たり前の愛

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 今度そこへ駆けこんできたのは、まさかの月白だった。    生まれて初めて乱しているのではないかというほど息を荒くして、羽に覆われて黒くなってしまった温水に飛び入ってくる。 「お前、探していなかっただろう…。お前は、俺を忘れていた」    最初に恨み言が出てしまったことを呂色が気まずく思う間もなく、月白の腕は掴まえてくれた。 「忘れるものか。私の匡に居ればどこでもその気を感じられるようにまでなったはずだったのにどうしてかお前が分からなくなった。私の心の内に探すしかなかったのだ」    体を締めてくる腕ごと、翼のかわりに戻った腕で締め返す。 「俺は飛べなくていい。実を上手く啄めなくてもいい。月白の目に映る俺を覗きながら頭を撫でてやれるこの形がいい」    月白の背の方へ回していた手からぽちゃりと温水へ落ちた。    いっせいに噴き上がったうろこの玉は湯気に守られるようにして今度こそ割れずに昇って行く。 「土にも水にも共になれなかった愛は空を選んだか…。八咫烏が山へ戻って来て、自分の抜けた羽を集めている気配があった。海女房が腐り始めているのも剥がれだしたうろこで気づいてはいたが、すこしでも長く不知火の底に居るためだったようだな」  ふあふあと揺れながら、あたたかに遠くなっていく玉からもう悲しさを感じないことが苦しくて、呂色は一層強く月白へしがみついた。
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