1451人が本棚に入れています
本棚に追加
着物だけでなく、湯を吸った綿花もずっしりと体を抑えてきて、そろそろ本気で腰を上げなければと構えたところへ、月白が今度は手に持った綿花を両方の耳の穴へ押し込んできた。
急に音が遠くなったそこで、月白が唇を吸ってくる。
ちゅ、ぺろ、くちゅ…
閉ざされた体の中にこだまする愛撫の音に、綿花はどんどんとたまらないほど熱くなった。
じゅ、と唾液を飲まれる音に痺れ、呂色は今度こそ綿花を抑えている月白の手を掴まえた。
「乾いたな」
ごそりと持ち上げられた体には、すっかり湯を吸って大きくなった綿花がいくつもついてきた。
ぽろぽろと緑蒸すコケの上にそれが落ちるのを見ていると、塞がれた耳には初雪の落ちる音が聞こえる気がする。
「月白、最初に降りてくる雪を聞いたことはあるか」
体の中からする、自分じゃないような自分の声もおおきく中に響いた。
「ない」
「嘘だろう。お前は寒い国の生まれじゃないのか。そういう色だ」
「いや、暑く日差しの強い日ばかりだった。…古くを思い出すことは苦しいと思っていたが、呂色に聞かせてやるのだと思えばなんでも語れるものだな」
呂色は自身の耳へ詰め込まれていた綿花を取って、今度はそれを月白の耳へ押し込む。
月白はすこし驚いた顔はしたが、嫌がりはしなかった。
「口をちょっとだけ開けろ。雪が落ちてくる時は、こんな音がするんだ。これが耳に入ってると、たぶん聴ける」
目も瞑らせて、ゆるく開いた唇と同じくらい自分の唇も開けてそうっと重ね、ほっとちいさくちいさく口づけを降らせる。
「もう一度…」
月白に乞われて、何度も繰り返しているうちに口づけはどんどん深くなった。
最初のコメントを投稿しよう!