庭の棺桶

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 着物だけでなく、湯を吸った綿花もずっしりと体を抑えてきて、そろそろ本気で腰を上げなければと構えたところへ、月白が今度は手に持った綿花を両方の耳の穴へ押し込んできた。  急に音が遠くなったそこで、月白が唇を吸ってくる。    ちゅ、ぺろ、くちゅ…    閉ざされた体の中にこだまする愛撫の音に、綿花はどんどんとたまらないほど熱くなった。  じゅ、と唾液を飲まれる音に痺れ、呂色は今度こそ綿花を抑えている月白の手を掴まえた。 「乾いたな」    ごそりと持ち上げられた体には、すっかり湯を吸って大きくなった綿花がいくつもついてきた。  ぽろぽろと緑蒸すコケの上にそれが落ちるのを見ていると、塞がれた耳には初雪の落ちる音が聞こえる気がする。 「月白、最初に降りてくる雪を聞いたことはあるか」    体の中からする、自分じゃないような自分の声もおおきく中に響いた。 「ない」 「嘘だろう。お前は寒い国の生まれじゃないのか。そういう色だ」 「いや、暑く日差しの強い日ばかりだった。…古くを思い出すことは苦しいと思っていたが、呂色に聞かせてやるのだと思えばなんでも語れるものだな」    呂色は自身の耳へ詰め込まれていた綿花を取って、今度はそれを月白の耳へ押し込む。  月白はすこし驚いた顔はしたが、嫌がりはしなかった。 「口をちょっとだけ開けろ。雪が落ちてくる時は、こんな音がするんだ。これが耳に入ってると、たぶん聴ける」    目も瞑らせて、ゆるく開いた唇と同じくらい自分の唇も開けてそうっと重ね、ほっとちいさくちいさく口づけを降らせる。 「もう一度…」    月白に乞われて、何度も繰り返しているうちに口づけはどんどん深くなった。
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