庭の棺桶

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「駄目だ。俺はもう月白が好きすぎて雪になってられない」 「私もそう思っていたところだ。最初の雪の音より興味惹かれるものが私の口を吸うのだからな」    綿花にすっかり乾いた着物を脱がしもしないまま、月白が呂色の胸元を転がしていた手を尻へ回す。  いつもの逆も悪くないと、呂色も帯を解くことはせず、ゆると足を開いた。  まるで雪を踏みしめるときみたいだと、ぎゅうっと、確かに体へ入ってくる月白を感じながら、息を吐く。 「っ…ん、お前、あっ…、たまにしか着物を脱がないのは、なんでだ」    呂色の胸元へ舌を伸ばし掛けたまま、再び考え込む月白の、他では絶対に見せないだろう顔にあらぬところがうっかりきゅうんとなり、呂色はひとり悶えることになった。  答を待っていたのに、月白はぱくりと聞こえなかったようにそのまま含み、舌に転がす。    促す間も与えられず、嬌声と共に揺らされた。    今日は大して慣らしもしないまま香油まかせに入って来た月白へ、文句がわりに裸の背を縦横無尽と撫でてやる。  だが、呂色が果てたのを追うように月白もすぐに達したのには思わず聞いた。 「お前、本当は忙しいくせに俺とこんなことをしてるのか」    いつもは流れている髪が撫でつけられてあからさまな月白の顔を叱るつもりに手で挟み込むと、悪びれる様子もなく月白は聞き返してきた。 「なぜだ」 「急いでるみたいに俺に入ってきたり、お前にしてはやけに早く出したからだ」    証拠を押さえた岡っ引よろしく張り切ってずいと向かえば、くすりと形の良いまま口角が上がる。 「やはりお前に触れる時は、今だ着物で落ち着きを纏っておく必要があるみたいだな」    もちろん見当はずれを恥じたわけではなく、たまにしか脱がない理由をここで知ってしまったことに照れ、呂色の目元に朱が刺す。 「…どうせ、一度で終わらないんだ。はじめくらいは、急いでもいい」    照れ隠しに言ったつもりのそれを今一度自身でよく考えてみて、今度は頬まで染まった。 「風呂は、やはりのぼせるな」    見られぬようぴとり重ねてみた月白の頬もいつもよりほんのり熱を持っているようで、呂色もうんと頷き、一緒に全部を風呂のせいにした。
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