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「呂色殿、心配かけてすまなんだな」
てっきり自分も怒られるほうだと思っていたのが拍子抜けし、むしろ慌てて謝った。
「昼間から水鬼に作ってもらった風呂で長々遊んでいたのは俺だ。そろそろ花の種を集めとかないといけないことも、陳情書の整理があることもわかっていながらな」
「そんなことは、はなからわしの役目。今は呂色殿が手を貸して下さるので随分楽をしとる」
「不満があって外へ出たわけではないのか」
何でも聞いてやるために水鬼の要望を待っていたのだろう月白がそう聞けば、水鬼はぶんぶんと首を振ってもろこし頭を揺らした。
「不満など、とんでもないことでございます! …あの桶を作りながら、ずっと昔にも作ったことがあったと思い出しましてな。織部と瑠璃の冷えた手にもほんに今さらの望郷の念を感じてか、無性に雪を踏みたくなりましたんじゃ」
「へぇ、水鬼は前にも風呂を作ったことがあったのか」
あんな雪の中を歩いた後の風呂は、確かにひと汗後と同等に気持ちの良いものだろうと想像した。
だが、水鬼は呂色のその問いにも首を振った。
「よくよく思い出してみれば、あれは棺桶じゃった」
ほらみろと、月白を横目に睨み、何かを見通したように目を伏せたその横顔にはっとした。
それを聞くか聞くまいか迷う間もなく、織部がまっすぐな声に問う。
「その棺桶にはどなたを入れたのですか」
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