第六章 飛翔せしもの

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 そして、そのまま俺の右腕に自分の両手を当てる。  と、同時に俺の腕は返され、俺は愛氣に背中を向けて左手を床に着いて立て膝になった。  気づいた周りの乗客の何人かが、俺達に驚きの視線を向ける。 『電車、揺れますのでご注意ください』  今さらおせーよっ!  間の悪いアナウンスに少しキレそうになる。 「大丈夫? 咄嗟に身体が動いちゃって」  俺を優しく立ち上がらせる愛氣。  見ていた客達も視線を俺たちから外して行く。 「あ、ああ俺のほうこそゴメン。だけど今のはワザとじゃないから」 「うん。今のはしょうがないよ」 「それよか今の……」 「今の?」 「その動き」 「(いっ)(きょう)じゃ」  今の揺れにもビクともしなかったのか、さっきと同じ姿勢のまま虎蔵じいさんがいた。 「いっきょう……」 「またの名を腕押さえとも言うがの」 「直人も稽古したことあるでしょ?」 「そんなのあったかな?」 「ほら、準備体操でやってるのと同じよ」  準備体操……。  そう言えば、技の稽古に入る前にストレッチや、変なラジオ体操の変形みたいなのをやってたような……。   
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