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六、小さな天使
「う、うそだろ……」
俺は愛氣の動く姿を見てまたもや驚いてしまった。
速い速い。
虎蔵じいさんのような軟体的な滑らかさとは少し違う。
けど、愛氣もかなり速い!
紺色のセーラー服の上に白いカーディガンを羽織っている愛氣。
そのカーディガンと制服のスカートをヒラッとさせて、風の妖精みたいに人波を渡って行く。
クラシックバレエ……。
いや、どっちかって言うとフィギュアスケートのように滑っているみたいだ。
ホントに時たま消えてるようにも見える。
俺と始めて会った時に見せた『縮地法』てのも使ってるんだろうか?
愛氣に気づいた何人かも素早く通り過ぎて行く制服の少女を、驚きと不思議さが入り混じったような目で見ていた。
「直人、何秒?」
帰って来た愛氣に声を掛けられた時、俺は何を訊(き)かれているのか分からなかった。
「あ、ゴメン。止めるの忘れてた……」
「ちょっと、もぅ~」
「だってあんまりスゲーんだもん」
「三二秒一じゃて」
いつの間にか俺が持っていたはずのストップウォッチが虎蔵じいさんの手の中にあった。
「やった。記録更新! でもまだおじいちゃんにはかなわないか」
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