第六章 飛翔せしもの

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 前に来た時はあんなのいなかったはずだけど……。  無言で立ち上がり、その選手に向かって組みに行く宍戸。  宍戸の力強い両腕が選手の道衣を掴む。  その瞬間。 《バーンッ!》  その選手が後ろに転がると同時に宍戸の巨体が宙を舞った。  うまい!  巴(ともえ)投げだ。  しかし――! 「あ、危ないっ!」  宍戸の身体がこっちに向かって飛んで来た!  その先には他のおばさんと稽古していた亜美さんが……。 「亜美姉っ!」  愛氣の声よりも早く亜美さんはそのおばさんを庇いながら間一髪、横に避けた。 《ドッ、バァーンッ!》  勢い良く畳に叩きつけられる宍戸の巨体。 「オラァ! 勝家ぇ。まだ終わってねぇぞぉー」  ゆっくりと立ち上がる宍戸。 「ちょっと! アンタこっちに向かって投げたら危ないでしょっ!」  愛氣が選手のほうに声を張り上げた。 「あん?」  肩をいからせながらこっちに向かって来た。  何も、愛氣もあんなケンカ越しに言わなくても……。 「なんだい。お嬢ちゃん」  近づいて来た選手は言葉使いは穏やかな感じだけど目が笑っていない。 「なによ」  愛氣も負けじと見返す。 「兄ちゃん。そいつ、あのジジイの孫だよ」   
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