第六章 飛翔せしもの

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「だけど先生よぉ~」 「すいませんみなさん。我が部の強化のために卒業生の行長にもたまに練習に付き合ってもらってるもので」 「しかし、普段スカしてる清水が合氣道なんてやってるとは知らなかったぜ」 「別に知らなくてもいいわよ」 「クッ……」  なんかちょっと『宍戸兄』がかわいそうなような。  亜美さんてよっぽどこいつの事が嫌いなんだな。 「そうだ!」  苦い顔をしていた宍戸兄、行長が急に明るい声を出した。 「どうした。行長」 「先生、合氣道ってのは確か柔道にも通じるところがあるんだよな?」 「あ、ああ、そうだな……」  この前身をもって知ったんだよな。 「だったら柔道部の強化を兼ねて合氣道との試合をしたらどうよ?」  え!? 試合? 「しかし、合氣道には試合は無いんだ――」  宏治郎さんの言葉を行長が遮る。 「いいじゃん。んな堅いこと言わなくたって。なあ、じいさん。アンタってスゴインだろ? 俺達にひとつ稽古をつけてくれよ」 「コラッ行長! 上杉先生に向かってなんて口の利き方を……」 「構わんよ」 「え?」 「ちょっと父さん!」 「ワシも昔は柔道家と良くやりあったもんじゃて」 「なんだじいさん。堅いオッサンより話し分かんじゃんよ」 「じゃが、この健康合氣道倶楽部の人達はあくまで健康のために合氣道を選んでいるのであって試合に勝つためではない」 「だから?」 「試合では無く合氣道と柔道との武道交流稽古としてならお受けしよう。どうじゃな? 鮫嶋さん」 「え、ええ、それでしたら。私達も上杉先生に教えを()えるのなら願ってもないこと で」 「ならば、交流稽古の日は一ヶ月後にこの武道館で。相手はウチの道場の若いのでどうじゃ?」 「はい。分かりました」 「宍戸……」  隣で愛氣の(はげ)しくも鋭い目が宍戸兄弟に向かって注がれている。  宍戸兄弟、兄はニヤついて亜美さんを見て、弟の勝家も愛氣を睨み付けている。 「あの、あくまで健康合氣道倶楽部のみなさんとは手合わせしないようにお願いしますよ」 「それはもちろん」  宏治郎さんの念押しに鮫嶋が答えた。 「へへっ。清水とも一緒にケイコ出来んの楽しみにしてるぜ」  ソッポを向いている亜美さんの目を覗き込むようにする宍戸行長。  まさか、こんな形で宍戸達と『再戦』することになるなんて、俺は思っても見なかった。
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