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離せよ! 畜生!
ダメだ全然動けない。
「――!」
不意に俺の身体が自由になった。
と、思ったのは勘違いだと一瞬のうちに気づく。
それは勝家が俺を得意の裏投げで後ろに放り投げようと帯から、俺を持ち上げたからだったんだ。
そのまま、俺は天井を見つめる。
まるでゆっくりとした時間の中にでもいるような感覚を味わいながら俺は宙空に放り投げられる。
「直人、直人……」
愛氣の俺を呼ぶ声が虚しく頭の中に響いていた……。
「直人、直人……」
無力な俺。
愛氣の声だけが虚しく頭の中に響く。
ゴメン愛氣。
何も出来なくて。
ゴメン、結局弱いままで。
ゴメン、お前を守るって宣言したのに。
ゴメン、ゴメン、ゴメン……。
「直人……直人……直人……」
愛氣、愛氣、愛氣……。
《ドーンッ!》
ゆっくりとした感覚が急に速くなり俺は畳の上に叩きつけられた……。
「直人、直人っ!」
「愛氣、俺はもうダメなんだ。俺はお前を――」
「何言ってるの? 早く起きないと学校遅刻するわよ」
何言ってんだよ愛氣。
今はそれどころじゃ……。
え?
いつの間にか愛氣の声が美沙ちゃんに……。
そして、目の前にはピンクのエプロンをした若き母、長尾美沙子の姿が……。
「やっと起きた。もぅ、ベッドから転げ落ちて。寝相悪いんだから」
気がつくと自分の部屋。
「なんだ夢……か……」
《ふわぁ~あ》
「今、何時?」
あくびと共に眠い目をこすりながら、俺は訊ねた。
ベッドの横の目覚まし時計を見る美沙子。
「八時十五分だけど」
「そっか……え!? もうそんな時間っ!?」
朝のホームルームは八時半から始まる。
「なんでもっと早く起こしてくんなかったんだよ」
「起こしたわよ。でも、直人ったら全っ然っ起きないんだから。あっ――」
美沙子の言葉を最後まで聞かずに、俺は跳び起きた。
急いで制服を着た俺はバッグを持つと、更に急いで玄関でに行き、赤いコンバースのローカットを引っ掛けた。
「ちょっと、ご飯は?」
「んなヒマあるわけないじゃんっ!」
ったく、とんでもねぇ夢を見ちまったぜ。
マジ寝覚め悪すぎ。
朝のまぶしい光の中、俺はマンションの玄関を飛び出した。
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