17人が本棚に入れています
本棚に追加
季節は巡り、あっという間に高校3年生になった。
紗千と莉子は3年になっても同じクラスだったが、恒貴と玲は別のクラスになった。
しかし寂しがっていたのも束の間、浮かれている余裕なんてないくらい一気に受験ムード一色になった。
例外なく、彼らは将来にかかわる重要な岐路に立たされているわけである。
「ねぇ、紗千はどこの大学行くの?」
放課後の教室で何気なく訊ねてきたのは莉子だ。
恐らく進路相談の用紙が配られたせいだろう。
「うーん、それがまだ決まってなくて。莉子は?」
「今のところはA大の法学部かなぁ」
「ちゃんと決めてるんだぁ。なんで法学部にしたの?」
「それは安定の公務員狙いだから!」
―そっか、莉子ちゃんとなりたいもの決まってるんだぁ。
紗千は自分が何になりたいかなんて真剣に考えたことがなかったことに気づいた。
「私はどうしようかなぁ…文学部か、心理学とかも興味はあるけど…」
「まぁ、まだ時間はあるから」
「うん」
そこにカバンを抱えた玲が顔を出す。
「舞島、行く?」
「ああ、うん。ちょっと待って」
「あれ、莉子。安良城くんとどこか行くの?珍しいね」
「実はこれから安良城と勉強する約束してて。わからないところ、安良城に教えてもらおうと思って」
いくら受験が控えているとはいえ、莉子が玲と勉強をすると言い出すなんて意外だった。
莉子はそんなに成績が悪いわけでもないし、元々あまり男子が得意ではない彼女だから必要なら塾に行くだろうと思っていた。
でもわざわざ一緒に勉強するなんて…?
「2人で?」
「そうだけど?」
「ふーん」
むくむくと好奇心が湧き上がってきて、紗千はこっそり莉子に耳打ちした。
「ねぇ、もしかして莉子って安良城くんのこと好きなの?」
すると彼女は少しだけ恥ずかしそうに答えた。
「好きだよ?」
―ビンゴなのね!!!!
紗千は騒ぎそうになるのをぐっと堪えた。
言いたいことはいっぱいあるが、今は余計な邪魔はしない方がいいだろう。
「ふふっ、じゃあしっかり勉強してきてね!」
そういって紗千は莉子を玲の元へ送り出した。
「また明日ね!」
「うん、また明日!」
最初のコメントを投稿しよう!