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一晩経てば、空の舞台は暁闇に姿を消すだろう。そして最後の最後に星がひとつ、寂しくも健気な輝きを灯しながら残るのだ。やがて空の支配者がもたらす明けに呑みこまれる運命を知っていながら。
「ひとつで十分だよ。星は、ひとつで十分な力を持ってるだろうさ。そして一つにしぼってアプローチしたら、ひょっとしたら手が届くかもしれない。……僕は、そう思うよ」
ゆっくりと息を吐く。それから、魔術師先生に向き直った。
レーテはとても変な顔をしていた。
「……何言ってるのかよく分からないわ」
当惑に翠黛を寄せる。そのことが不満なのだろう、僕を睨むような気配もあった。
僕は微笑んだ。
――それでいい、キミの顔から暗い翳りが消えるなら、他のどんな顔をしてくれてもいい。
「つまりさ、満天の星を従えたキミにはついて行ける気がしないけど、ひとつの星を従えたキミにならまだついて行けるかな、と。あとはその力の実験台には僕を使わないでほしいかな」
「……ふん。アンタみたいな頑丈な人間なかなかいないんだから、実験台が必要なら分からないわよ」
「まあキミの命令ならやるけどさ。うっかり死んじゃったらもうお茶淹れてあげられないしね?」
にっこりとそう言ってやると、魔術師先生はうっとうろたえた。
「――い、一考の余地はあるわね」
「是非ともそうしてください。ところでそろそろ部屋に戻ったらどうかな。いい加減眠らないと体壊すよ」
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