星の群れ

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 気候の温暖な僕たちの住む土地。時期によっては、夜であってもふわふわと暖かい。目を閉じてその空気に浸ると、まるで真綿にくるまれているような気分になる。  真綿の夜。開け放しのバルコニー。僕が作ったテーブルの上にはランプが置かれ、その橙の灯火が、椅子に腰かけた女史の長いくせっ毛にほのかな陰影をかけていた。  僕はその後ろ姿に声をかけた。 「レーテ。お茶いらないの?」 「――いるに決まってるでしょ」  でなきゃ頼まないわよ――と、気まぐれな先生は不機嫌に鼻を鳴らす。  おやおや。僕はひそかに片方の眉を上げた。レーテ女史、どうやら不機嫌。原因はなんだろう?  この女史の表情は大半が機嫌が悪そうなことくらい、僕はよく知っている。だが、そう“見える”だけで実際には機嫌が悪くないことも多い。  そしてほんの数十分前、僕にお茶を淹れるよう命じたときには、少なくともこんなに機嫌が悪くはなかったのだけれど。  僕は女史の傍らのテーブルにティーカップを置き、問いかけた。 「どうかしたの? 今回の実験は九分九厘いい結果が出ないだろうって、最初から分かってたんじゃなかったっけ」 「そうよ、案の定失敗したわよ。いいのよ“失敗する”ってことを確かめるための実験だったんだから」     
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