第一夜 子どもたちが屠殺ごっこをした話

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 太陽が空のてっぺんを少し過ぎた頃、中心街の食堂で簡単に腹を膨らませた。  よく言えば高タンパク低カロリーといった素朴なメニュー。 中でも、焼き立てのライ麦パンはなかなかに食べ応え有る代物だった。  暇を持て余したマイに街を案内してもらう途中、広大な原っぱが特徴的な記念広場に行きあたった。  お祭りの最中なのか。  色とりどりの天幕が張ってあるが人はまばらだ。 「死んだ娘のへぼ一座だな。王様に使用料を払って広場の一部を占有しているのさ。来た当初は結構人気があったのだが、まあ持って最初の数日ってところだな」  ふと天幕の裏口付近を見ると、どこかで見覚えのある男性いた。  何やら辺りを窺うようにして、こそこそと入っていく所だった。  誰だったかマイに尋ねようとすると、不意に背後から強い力で肩をばしばしと叩かれた。 「おいおい。ヘボ一座とはとんだご挨拶だね。確かにこの街の人達は他よりはるかに目が肥えている点は認めるがね」  驚いて振り返る。  中背だが筋肉質の男が、気のいい笑顔を浮かべていた。 「良かったら見ていかないかい。お代は見ての帰りってね」 「あんたは?」  マイがいかがわしい相手を見る目つきで、警戒の態度を露わにする。 「座長のクラウスだ。残念だなあ。この街での公演も次で最後なのだが」 「座長。買ってきた品物はどちらに置きましょう」  道化の服を着た中年の男が、腕の中で鳴き声を上げる茶色の鶏に負けじと声をはりあげた。 「ちょっと持ってこい」  道化が放った物体は放物線を描いて、座長のごつごつした手にすっぽりおさまった。  見ると手の平ほどの大きさのずっしりしている茶色い皮袋だ。  座長は丸太のような人差し指と親指を差し込んで何かを取りだした。  そして人のいい笑顔を浮かべて、マイに何かを握らせた。  マイが小さな手を開くと、小指の先ほどの小さな緑色の石が二つ。  午後の柔らかな日の光を受けて、きらりと輝いた。
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