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「この指輪は何のつもりだ。ヘボ座長」
あからさまに不審の色を浮かべてマイがもっともな問いを投げる。
「なあに。お近づきの印だよ。可愛いお譲さん方。残念ながら我が一座は男所帯でね。私達は常に気性の荒い野郎どもに囲まれているから、行く先々の街で出会う美人にはめっぽう弱いというわけさ。おっと開演時間が近づいてきたな。名残惜しいけどこれでさよならだ。またどこかの街で会えるといいね」
座長は大手を振ると、人もまばらな天幕へどたどた駆けていく。
ほどなくして賑やかな笛や太鼓の音が盛大に広場へ木霊し始めた。
「変人にしてはなかなか気前のいい奴じゃないか。当然、カッシーの分は預かっておくぞ。当分の飯・宿代というわけだ」
「確かに変ね。矛盾を感じるの。なにかしらこの違和感の正体は」
ほっそりとした指に嵌めた指輪の宝石部分を天にかざして、無邪気に喜ぶマイ。
彼女を横目に、私の胸中はもやもやしていた。
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